$ 0 0 少し大げさかもしれないが、彼らの音楽を聴いているとあらゆる感性、感情、肉体的なパワーを結集して人生を楽しみたい、まだまだ自分は何も出しきれていないという、渇望に気づくようなところがある。 ザ・トリオ・プロジェクト、矢野顕子との5年ぶりのプロジェクトを経て上原ひろみが新たなパートナーとして発見したアーティストもまた、彼女同様、生きるエネルギーを音楽で最大限、体現している人物だった。コロンビア出身でメロディ、コード、ベースラインからリズムを同時に演奏する、およそ世の中のハープの常識をぶち壊す(!)ジャズ・ハープ奏者のエドマール・カスタネーダ。 出会いから約1年。上原がこのプロジェクトのために書き下ろした新曲や、エドマールのオリジナル、そしてカヴァーも交えたスリリングで愉悦に満ちたライヴ・アルバム『ライヴ・イン・モントリオール』は、デュオのシンクロと攻防の両方が充満した作品になった。 それにしても新しい音楽の旅をしているこの二人、世界的なジャズ・プレイヤーという以前にとびきりチャーミングな笑顔で、その場をチアフルなムードにしてくれる、最高のコンビだ。 Hiromi & Edmar Castaneda - Fire (Live in Montreal) 対談:上原ひろみ×エドマール・カスタネーダ (c)2017 Juan Patino Photography ——今回のアルバム・ジャケットを見たときにニューヨークのキッズみたいだと思って(笑)。 上原・エドマール ははは! ——これまでの上原さんのジャケットとは雰囲気が違いますよね。 上原 そうですね。この前ヨーロッパをツアーしたときにも、笑ってる写真って珍しいねって言われたので、皆さん同じことを考えるんだねって話をエドマールとしました(笑)。 ——(笑)。上原さんがエドマールさんを見初めたのが2016年の<モントリオール・ジャズ・フェス>だそうで、その時の印象はどんなだったんですか? 上原 まずハープというものに対して全く無知に等しかったというか、皆さんが思っているようなハープと同じような知識しかありませんでした。オーケストラの中でとか、クラシカルなイメージしかなかったので、彼を見たときにハープってこんなに情熱的でリズムに溢れてるものなんだっていうのがびっくりしました。 ——エドマールさんのハープの奏法に影響しているバックボーンってなんなのですか? エドマール まだ学び途中でもありますし、自分が何をやってるか今の段階でどういうことをやろうとしてるのか見出そうとしてるのでうまく言い表せませんが、最初に演奏し始めたのはコロンビアの伝統的なフォーク・ミュージックです。そこから16歳でニューヨークに出てきて、ジャズとかファンクとかいろんなものが入ってきて、自分の音楽に混じり合ったんです。 ——オリジナルなスタイルであると。 エドマール もしかしたらこの冒険とか自分のやってきたことは小さい頃から夢を抱いてきたことで、それで少しずつ時間をかけて新しいスタイルを作り上げてきたんですね。でも一言で自分のやってることを言うならば、神様からのプレゼントであって、その神様の存在を自分の音楽を通してみんなに伝えていくというのが一つあると思います。 ——なるほど。上原さんはエドマールさんに直接声をかけられた頃、音楽家としてのプランはどういう状態だったんですか? 上原 基本的にいつも何か面白いものはないか、面白いミュージシャンはいないかというのを狩人のように(笑)、探しているんですね。「Like a Hunter」。 エドマール ははは! 上原 だからいつもライヴを観に行ったり、人に「いいよ」と言われたものを聴いたり、アンテナを張り巡らせているんですけど、ほんとに今回はラッキーな運命の巡り合わせというか、なんかもう出会うべくして出会ったなという感じがしています。すごく……最初に見たときにすごく衝撃を受けたのと同時に「一緒にやりたいな」という気持ちが生まれて。で、一緒にやって、なんで今まで一緒にやらなかったんだろう? と思うぐらい新鮮な音の混ざり合いがありました。 ——エドマールさんは上原さんに対してそれまでどんな印象を持ってらっしゃいましたか? エドマール 名前は知っていましたが、実際に演奏を聴くチャンスがなかったので、オープニングアクトを務める時、初めて聴いてもう驚いて。ワオ! って。ヒロミが一つ一つの音、一つ一つの演奏にかけていく情熱の凄さ、それが心からピアノに伝達していくことに驚きました。バックステージでずっとジャンプしてたから疲れてしまいましたけど(笑)。 ——(笑)。お二人の音楽って人生楽しもうぜ! っていう印象があります。 エドマール いつも楽しんでます。お話ししたり一緒に飲んだり食べたり、叫んだり(笑)。 上原 叫ばないよ!(笑) ——ちなみに一番最初に演奏した曲はなんですか? エドマール “エクオルダス”です。 上原 アルバムには入っていない曲です。 エドマール 出会いから1か月後にヒロミのブルーノートNYのライヴに出演することになったのですが、サウンドチェックで初めて一緒に演奏したときに、とにかく驚くぐらい通じるものがありました。実はハープとピアノってどういうふうに演奏を一緒にできるかな? って、ちょっと怖かった部分はあったんです。しかもあんなに素晴らしいクラブで演奏するということもあって。でもすべてうまく行っちゃったという。何かあったんでしょうね。もう何年も前からやってたような感じがありました。 ——ブルーノートNYでのライヴが初演だったんですか? 上原 そうです。当日のサウンドチェックで初めて一緒に音を出しました。 ——すごい! エドマール リハーサルしてないのにできるかな? って不安でしたけど。 上原 当日、4時から6時ぐらいまでサウンドチェックをしながら合わせて、そのあと8時からコンサートという。 ——すごい……。 上原 そこでは全編ではなく、数曲ゲストで出てもらいました。 エドマール ほんとに素敵な瞬間でした。ファースト・セットが終わった後、もう観客もすごく大騒ぎだったので、「今の見た?」みたいな感じで二人で見つめあっちゃいました。なんか変なもの見たんじゃないかと思うぐらい(笑)、素晴らしいときでした。 上原 ほとんど会話をしてなかったので、ブルーノートで会って、演奏してバタバタしてたのでほとんど会話もないまま、音の方が先に会話をしたことがある状況だったので、終わって「Nice To Meet You」って(笑)。 エドマール ははは。「君の名前は何だったっけ?」って感じ。 上原 ブルーノートには楽屋が二つあるんですけど、ベランダで繋がってるんですね。で、暑かったのでエドマールが外に出て、私も出た時に初めて会話をしました。でも、そしたらすぐ出番だと呼ばれたので、ほんとに二言三言だけ(笑)。 ——音楽で話せると。ところで上原さんがエドマールさんのハープの曲を聴いた時にアレンジが難しいなと思われた部分ってありますか? 上原 ハープはピアノでいう黒鍵の音が出せないので、その制約の中で曲を作るというのはとてもチャレンジングでしたね。 ——半音がないというふうには聴こえないのが不思議で。 上原 制約が新しい可能性のドアを開いてくれて、いつも自分が作らないような曲を書かせてくれた気がします。 ——いろんな楽器と共演されてきて、ハープって何が近いですか? それとも何にも似ていない? 上原 私は、ハープと一緒にやりたかったと言うよりはエドマール・カスタネーダと演奏したかったんですね。エドマールが弾いてるハープと演奏したかったので、曲を書くときもハープのためにというよりは、エドマーのハープがいつも念頭にありました。 エドマール フフフ。 ——照れてる(笑)。今回、共演するにあたって書かれた新曲の中で逆にエドマールさんの中で新しいドアが開いた曲はありますか? エドマール ヒロミが言ったように自分が弾くハープのために書いてくれたというのが大きいです。だから自分もいろんなことをやっていこうと選択肢が広がりました。それに即興がなにより大好きなんですけど、こういうグルーヴ感とこういうパートナーで大きな爆発を引き起こすことができるっていうのはすごく恵まれていると思うし、これまで共演してきた人たちは落ち着いた演奏する感じの方が多かったんですけど、ヒロミはついていくために「もっと走れ、もっと走れ、もっと走れ」ってペースを上げていかなきゃいけない、そういうのは初めてでした。 上原 彼が言ってるのは速さではなく、エネルギー・レベルのことなんです。自分と同じようなエネルギーを持ってる人はなかなかいないって(笑)。 エドマール パワー! 上原 カモーン!「Here We Go!」って(笑)。 ——ライヴの動画を拝見してるとエドマールさんは踊りながら弾いてるじゃないですか? ハープとダンスしてるみたいな。 上原 もともとダンスしてるんですよ。ダンサーだもんね? エドマール コロンビアのフォルクローレのダンサーで。タンゴやサルサを踊っていました。 ——腑に落ちました。 エドマール (笑)。身体の中に踊ることによってメトロノームのようなものが根付いたんです。 ——民族的なダンス以外に好きなダンスはありますか? エドマール タンゴ、フラメンコ、タップダンス、ありとあらゆるダンス。リズムがとても大事なので。 上原 私も踊れないけどダンスはすごい好きです(笑)。 次ページ『ライヴ・イン・モントリオール』のために作曲、四楽章からなる“ジ・エレメンツ”を語る!Copyright (C) Qetic Inc. All rights reserved.
少し大げさかもしれないが、彼らの音楽を聴いているとあらゆる感性、感情、肉体的なパワーを結集して人生を楽しみたい、まだまだ自分は何も出しきれていないという、渇望に気づくようなところがある。 ザ・トリオ・プロジェクト、矢野顕子との5年ぶりのプロジェクトを経て上原ひろみが新たなパートナーとして発見したアーティストもまた、彼女同様、生きるエネルギーを音楽で最大限、体現している人物だった。コロンビア出身でメロディ、コード、ベースラインからリズムを同時に演奏する、およそ世の中のハープの常識をぶち壊す(!)ジャズ・ハープ奏者のエドマール・カスタネーダ。 出会いから約1年。上原がこのプロジェクトのために書き下ろした新曲や、エドマールのオリジナル、そしてカヴァーも交えたスリリングで愉悦に満ちたライヴ・アルバム『ライヴ・イン・モントリオール』は、デュオのシンクロと攻防の両方が充満した作品になった。 それにしても新しい音楽の旅をしているこの二人、世界的なジャズ・プレイヤーという以前にとびきりチャーミングな笑顔で、その場をチアフルなムードにしてくれる、最高のコンビだ。 Hiromi & Edmar Castaneda - Fire (Live in Montreal) 対談:上原ひろみ×エドマール・カスタネーダ (c)2017 Juan Patino Photography ——今回のアルバム・ジャケットを見たときにニューヨークのキッズみたいだと思って(笑)。 上原・エドマール ははは! ——これまでの上原さんのジャケットとは雰囲気が違いますよね。 上原 そうですね。この前ヨーロッパをツアーしたときにも、笑ってる写真って珍しいねって言われたので、皆さん同じことを考えるんだねって話をエドマールとしました(笑)。 ——(笑)。上原さんがエドマールさんを見初めたのが2016年の<モントリオール・ジャズ・フェス>だそうで、その時の印象はどんなだったんですか? 上原 まずハープというものに対して全く無知に等しかったというか、皆さんが思っているようなハープと同じような知識しかありませんでした。オーケストラの中でとか、クラシカルなイメージしかなかったので、彼を見たときにハープってこんなに情熱的でリズムに溢れてるものなんだっていうのがびっくりしました。 ——エドマールさんのハープの奏法に影響しているバックボーンってなんなのですか? エドマール まだ学び途中でもありますし、自分が何をやってるか今の段階でどういうことをやろうとしてるのか見出そうとしてるのでうまく言い表せませんが、最初に演奏し始めたのはコロンビアの伝統的なフォーク・ミュージックです。そこから16歳でニューヨークに出てきて、ジャズとかファンクとかいろんなものが入ってきて、自分の音楽に混じり合ったんです。 ——オリジナルなスタイルであると。 エドマール もしかしたらこの冒険とか自分のやってきたことは小さい頃から夢を抱いてきたことで、それで少しずつ時間をかけて新しいスタイルを作り上げてきたんですね。でも一言で自分のやってることを言うならば、神様からのプレゼントであって、その神様の存在を自分の音楽を通してみんなに伝えていくというのが一つあると思います。 ——なるほど。上原さんはエドマールさんに直接声をかけられた頃、音楽家としてのプランはどういう状態だったんですか? 上原 基本的にいつも何か面白いものはないか、面白いミュージシャンはいないかというのを狩人のように(笑)、探しているんですね。「Like a Hunter」。 エドマール ははは! 上原 だからいつもライヴを観に行ったり、人に「いいよ」と言われたものを聴いたり、アンテナを張り巡らせているんですけど、ほんとに今回はラッキーな運命の巡り合わせというか、なんかもう出会うべくして出会ったなという感じがしています。すごく……最初に見たときにすごく衝撃を受けたのと同時に「一緒にやりたいな」という気持ちが生まれて。で、一緒にやって、なんで今まで一緒にやらなかったんだろう? と思うぐらい新鮮な音の混ざり合いがありました。 ——エドマールさんは上原さんに対してそれまでどんな印象を持ってらっしゃいましたか? エドマール 名前は知っていましたが、実際に演奏を聴くチャンスがなかったので、オープニングアクトを務める時、初めて聴いてもう驚いて。ワオ! って。ヒロミが一つ一つの音、一つ一つの演奏にかけていく情熱の凄さ、それが心からピアノに伝達していくことに驚きました。バックステージでずっとジャンプしてたから疲れてしまいましたけど(笑)。 ——(笑)。お二人の音楽って人生楽しもうぜ! っていう印象があります。 エドマール いつも楽しんでます。お話ししたり一緒に飲んだり食べたり、叫んだり(笑)。 上原 叫ばないよ!(笑) ——ちなみに一番最初に演奏した曲はなんですか? エドマール “エクオルダス”です。 上原 アルバムには入っていない曲です。 エドマール 出会いから1か月後にヒロミのブルーノートNYのライヴに出演することになったのですが、サウンドチェックで初めて一緒に演奏したときに、とにかく驚くぐらい通じるものがありました。実はハープとピアノってどういうふうに演奏を一緒にできるかな? って、ちょっと怖かった部分はあったんです。しかもあんなに素晴らしいクラブで演奏するということもあって。でもすべてうまく行っちゃったという。何かあったんでしょうね。もう何年も前からやってたような感じがありました。 ——ブルーノートNYでのライヴが初演だったんですか? 上原 そうです。当日のサウンドチェックで初めて一緒に音を出しました。 ——すごい! エドマール リハーサルしてないのにできるかな? って不安でしたけど。 上原 当日、4時から6時ぐらいまでサウンドチェックをしながら合わせて、そのあと8時からコンサートという。 ——すごい……。 上原 そこでは全編ではなく、数曲ゲストで出てもらいました。 エドマール ほんとに素敵な瞬間でした。ファースト・セットが終わった後、もう観客もすごく大騒ぎだったので、「今の見た?」みたいな感じで二人で見つめあっちゃいました。なんか変なもの見たんじゃないかと思うぐらい(笑)、素晴らしいときでした。 上原 ほとんど会話をしてなかったので、ブルーノートで会って、演奏してバタバタしてたのでほとんど会話もないまま、音の方が先に会話をしたことがある状況だったので、終わって「Nice To Meet You」って(笑)。 エドマール ははは。「君の名前は何だったっけ?」って感じ。 上原 ブルーノートには楽屋が二つあるんですけど、ベランダで繋がってるんですね。で、暑かったのでエドマールが外に出て、私も出た時に初めて会話をしました。でも、そしたらすぐ出番だと呼ばれたので、ほんとに二言三言だけ(笑)。 ——音楽で話せると。ところで上原さんがエドマールさんのハープの曲を聴いた時にアレンジが難しいなと思われた部分ってありますか? 上原 ハープはピアノでいう黒鍵の音が出せないので、その制約の中で曲を作るというのはとてもチャレンジングでしたね。 ——半音がないというふうには聴こえないのが不思議で。 上原 制約が新しい可能性のドアを開いてくれて、いつも自分が作らないような曲を書かせてくれた気がします。 ——いろんな楽器と共演されてきて、ハープって何が近いですか? それとも何にも似ていない? 上原 私は、ハープと一緒にやりたかったと言うよりはエドマール・カスタネーダと演奏したかったんですね。エドマールが弾いてるハープと演奏したかったので、曲を書くときもハープのためにというよりは、エドマーのハープがいつも念頭にありました。 エドマール フフフ。 ——照れてる(笑)。今回、共演するにあたって書かれた新曲の中で逆にエドマールさんの中で新しいドアが開いた曲はありますか? エドマール ヒロミが言ったように自分が弾くハープのために書いてくれたというのが大きいです。だから自分もいろんなことをやっていこうと選択肢が広がりました。それに即興がなにより大好きなんですけど、こういうグルーヴ感とこういうパートナーで大きな爆発を引き起こすことができるっていうのはすごく恵まれていると思うし、これまで共演してきた人たちは落ち着いた演奏する感じの方が多かったんですけど、ヒロミはついていくために「もっと走れ、もっと走れ、もっと走れ」ってペースを上げていかなきゃいけない、そういうのは初めてでした。 上原 彼が言ってるのは速さではなく、エネルギー・レベルのことなんです。自分と同じようなエネルギーを持ってる人はなかなかいないって(笑)。 エドマール パワー! 上原 カモーン!「Here We Go!」って(笑)。 ——ライヴの動画を拝見してるとエドマールさんは踊りながら弾いてるじゃないですか? ハープとダンスしてるみたいな。 上原 もともとダンスしてるんですよ。ダンサーだもんね? エドマール コロンビアのフォルクローレのダンサーで。タンゴやサルサを踊っていました。 ——腑に落ちました。 エドマール (笑)。身体の中に踊ることによってメトロノームのようなものが根付いたんです。 ——民族的なダンス以外に好きなダンスはありますか? エドマール タンゴ、フラメンコ、タップダンス、ありとあらゆるダンス。リズムがとても大事なので。 上原 私も踊れないけどダンスはすごい好きです(笑)。 次ページ『ライヴ・イン・モントリオール』のために作曲、四楽章からなる“ジ・エレメンツ”を語る!Copyright (C) Qetic Inc. All rights reserved.