
text by Qetic・Ryosuke Suzuki
Interview:Oscar
――まず最初にアルバムを通して聴いたときに気づいたのは、使われているビートの多様性でした。これにはミュージシャンのご両親のもとで色々な音楽を聴いて育ったことも影響しているのだろうと思ったのですが。 Oscar(以下、オスカー) うん、僕の父は90年代に色々なダンスミュージックをプロデュースしていたし、姉はR&BやUKガレージ、ドラムンベースなどをよく聴いていて、僕も10代になるとR&Bにはまって、今はヒップホップもすごく好きだよ。僕はビート中心の音楽やサンプリングにとてもインスパイアされているし、僕の脳は落ち着きがなくてあっちこっちへ興味が飛び移るから、ひとつのジャンルに固定することができないんだ。父はアシッド・ハウスやシカゴ系のテック・ハウスをプロデュースしていて、その前には両親とも一緒にパンクやポスト・パンクのバンドをやっていたから、親も同じように色々な音楽に興味が移るタイプなんだよ。
『カット・アンド・ペースト』ジャケット
――その後は自分でも色々な音楽への興味を発見していったと思うんですが、ご自身の音楽的な興味としては、先ほども挙げていたR&Bやヒップホップが一番大きな影響を与えていると言えますか? オスカー 僕自身の音楽の趣味はすごく多岐にわたっていて、何でも聴くタイプだったから、これというひとつのジャンルに絞るのは難しいけど、ビートの面で一番大きく影響を与えたのはヒップホップで、あとはクラシック音楽やポップ・チャート音楽も大きいよ。50年代から00年代までの良いポップ・ミュージックが好きで、古典的なソングライティングやメロディーが何よりも好きなんだ。それにレゲエやダブ、ディスコも大好きだから、かなり色々なものがミックスされているね。 ――あなたは西ロンドン育ちで、今でこそロンドンの音楽シーンは東部が中心になっていますが、あなたが育った当時は西ロンドンが音楽やカルチャーの中心だったんですよね。 オスカー うん、西ロンドンはとてもクールだったよ。今ではすっかり開発が進んで高級化しすぎてしまったけど、当時は新しいものが次々と出てきてエキサイティングだった。ロンドンではすごく若いうちから色々なライブやパーティーに行って音楽を聴く機会があって、別に悪いことやルールを破ったりしなくても、色々なライブや演劇など出かけるところが尽きないんだ。10代の頃は全年齢入場可のライブがすごくたくさんあって、グライムやインディー・ディスコが盛り上がっていたし、ザ・リバティーンズなんかが大人気だった。でも僕はあんまりそういうインディー音楽は聴いていなくて、その頃はアリーヤやミッシー・エリオットを聴いていて、ギターミュージックを聴き始めたのはもっと後になってからだった。僕は女性ヴォーカルがとても好きだから、R&Bは定番だったね。 ――女性ヴォーカルといえば、今回のアルバムでも2曲ゲストヴォーカルで女性がフィーチャーされていますね。 オスカー うん、1人はパンクとかパンク・ポップ系のヴォーカリストで、もう1人はフォーク……かな。彼女はとても特別なシンガーで、ひとつのジャンルに留まらないから、フォークと呼ぶのは語弊があるけど。女性ヴォーカルと男性ヴォーカルが合わさったときの響きがとても好きなんだ。曲に男性ヴォーカルにはできない独特の温かみを与えてくれるからさ。 ――それはアルバム中でも効果的に表れていると思います。あなた自身の背景の話に戻ると、元々ずっと音楽だけをやっていたのではなく、音楽活動を始めた当時はセントマーチンスでアートを学んでいたと聞きました。そこではどんなアートを学んでいたんですか? オスカー セントマーチンスではファインアートを専攻していたんだ。だからインスタレーションでも彫刻でも絵画でも写真でも、なんでも自分のやりたいものをやることができた分、同時にそこが難しくもあった。かなりの自律性がないといけないからさ。最初は学校ではあまり上手くいかなかったんだ、僕は何かしらの枠組みを必要としていたから。そしてその枠組みは、学校での制作じゃなくて自分で音楽をやることで生まれていったんだ。だんだん家に帰って音楽を作ることが楽しみになっていって、やがてそれが僕自身の主要なフォーカスになっていった。僕は6歳の頃から音楽を習っていて、それ以降も度々音楽に戻っていたし、学校へ行ってもやっぱりまた音楽に戻ってきたよ。 Oscar - Good Things 次ページ:「ローファイとハイファイの中間地点のものを作りたいって強く思ったんだ。」